A

色々と書く

青の炎

はじめに

先日、Kindleホワイトペーパーで初めて購入した悪の教典を読み終え記事を書き、なんとなく貴志祐介の作品を立て続けに読みたくなった。

もともと、新世界よりと天使の囀りと鍵のかかった部屋しか読んでいなかったが、Kindleを買ってから、悪の教典にはじまり青の炎とクリムゾンの迷宮も読んだので、余韻のあるうちに書いておくことにした。

本題

ざっくりしたストーリーは、主人公の櫛森秀一(高校二年生)がろくでなしの義父から母と妹を守るために完全犯罪に挑む話だ。

しかし、義父を殺害してからも秀一の犯罪は続く。

そして母と妹を守るために悪に手を染めた秀一の結末はどうなるのか。

流れとしては

1.完全犯罪を企てる

2.義父の殺害

3.ツメの甘さから義父殺害の証拠を旧友に握られ金をゆすられる

4.旧友を事故に見せかけて殺害

5. 全てを暴かれた秀一は自殺する

といった感じだ。

 

読んでいるときの緊張感が結構凄い。秀一の行動がいちいち稚拙で未熟でツメが甘く、完全犯罪として押し通そうとするには無理があるというのが、素人目でも伝わってくる。

まだ義父を病死に見せかけ殺害したのは手際がわりと良かったとはいえ、殺害したあとの言動などで妹に怪しまれるようなボロを出すなどがあり、色々とぎこちない。

もちろん、悪の教典の蓮実教諭のようにサイコパスでもなければ人殺し常習犯でもないのでそれが当たり前だが、やはり見ていてハラハラする。

二人目殺害にいたっては、絶対それバレますやんみたいな方法を用いだし、案の定バレて義父殺害のほうも芋づる式に洗い出される。

最終的に秀一は自殺するのだが、徹頭徹尾家族を思いやっての行動だった。

逮捕されれば住所がわれてマスコミやら野次馬が家に殺到して母や妹に迷惑をかけてしまうし、今後も肩身の狭い思いをさせるということを危惧した結果、被疑者死亡となれば書類送検くらいで終わるだろうという理由から自殺に至る。

個人的にこの幕引きは好き。

特に具体例は思いつかないが、罪を犯した人間に対して、生きて償え云々、死ぬのは逃げることだ云々、もっともらしい説教をする物語は多いし、現実でもありそうな話だ。

そういう見方をすれば、秀一の幕引きはダメダメだろう。

例えそれがどんな人間であれ、二人も人を殺しておいて、チャリンコでトラックにぶつかり自殺しているのだから。

秀一に正面から突っ込まれたトラックの運転手が相当かわいそうだし、最近の流れてきに考えると秀一はそのまま異世界に転生してハーレムを創り上げそうな感じではあるけども。

閑話休題。個人的な意見としては秀一は死ぬべきだった。人に迷惑をかける死に方はいかがなものかと思うけど、秀一は死んでいい。もし完全犯罪が成功していたとしても、しばらく人を殺した感触を忘れていたとしても、日常の中で不意にやってくる人を殺したという事実の重みに耐えながら生きていくのは過酷なものだろう。

では牢屋に入って罪を償えばいいのだろうけど、それは秀一にとってどうしても避けたいことだ。家族を守る為に犯罪に手を染めて、結果が家族に迷惑をかけるのであれば本末転倒だろう。

どのみち、秀一が自殺したことでの迷惑もかけるし、警察の方からは事件の容疑者だったというのが伝えられるだろうから、いずれにせよ明るい未来はないのだけど。

それが、読んでいてつらいところだ。

どう頑張っても秀一は救われないし、家族にも迷惑はかけてしまう。かつての幸せで安穏とした日常、それは義父が家に居座る前の日々のことだが、その状態に戻ることが不可能だということがページを捲るごとに絶対的になっていく。おまけに、そもそも犯罪を行う原因となった義父は末期ガンでそう先は長くなかったという始末。

誰一人幸せになれなかった話だから、人によっては泣けるのかもしれない。

秀一のお母さんは、秀一が義父を病死に見せかけ殺害したことに気がついていたのだろうけど、それが自分たちを思えばこその行動ということは明らかだし、知らぬ存ぜぬの振る舞いをしていたと思われる。

他にも警察にアリバイ否定の証言を求められたクラスメイトの大門くんや彼女(?)の紀子が、事情は知らないが秀一を守ろうと嘘をついたことだとか。

そういった、周りの秀一に対する想いがまた涙を誘うから、やっぱり人によっては泣けるのかもしれない。

 

最後に、秀一に少しだけ怒りをおぼえたシーンがあったので紹介する。

それは秀一が自宅で紀子と二人きりになっていたときのこと。

このとき既に二人を殺害していた秀一は、そんな自分に彼女を愛する資格がないという、表の世界の女性に惚れてしまった闇の世界の住人風の悩みに駆られるわけだけど、結局その場でセックスしちゃう。しかも、記憶に間違えがなければゴム無し。

先述したような後ろめたさがあるのにも関わらず、自分の快楽を選んだ秀一の未熟さ。

そこはもうちょっと頑張って自制するべきだと思った。

とはいえ、私自身が読み進めていくうちに紀子のことを結構好きになっちゃったから、ちょっとばかり妄想が過ぎて嫉妬に燃えてしまい半ば八つ当たりしているだけなのかもしれない。

ともすればそれは、鮮やかなブルーの炎だろう。だが、その冷たい色相とは裏腹に、青の炎は、赤い炎以上の高温で燃焼する。